- アパートからの退去で高額な請求をされて困っている…
- 始めからあったキズなのに5万円請求された!
- 退去するときは入居者が新品に買い換えないといけないの?
賃貸物件で多いのが、退去費用についてのトラブルです。不動産業界は悪徳な業者が多いため、正しい知識を身に付けておかないと、退去の際に損をしてしまう可能性が高いです。
初めまして引越し屋のミツイです。
私は大手引越企業で2年間ノウハウを学び、現在は愛知県の中小企業で16年間、引越しのプロとして仕事をしています。
2,500件以上の引越し作業と、300件以上の梱包作業の経験があります。
この記事では、退去費用を安くするためのポイントを解説。記事の内容を参考にすれば、退去費用をぐっと低く抑えられます。
原状回復は、借りた当時の状態に戻すことではありません。入居者が修繕する範囲を知らないのも、損をしてしまう原因です。直すべき箇所・相場・退去手順を確認して、退去費用を安く抑えましょう。
賃貸の退去費用・原状回復費用を安くする5つのポイント
退去費用・原状回復費用を安くするポイントは下記5つです。1つだけではなく、全て理解することで、退去費用を安く抑えられます。
- 原状回復は部屋を借りた当時の状態に戻すことではない
- 故意・過失によってキズつけた箇所は新品価格を負担しなくて良い
- 故意・過失によるものでも壊れた箇所だけを負担すれば良い
- 自分の過失でつけたキズは火災保険で直せる
- 特約に記載されていても無効になるケースが多い
原状回復は部屋を借りた当時の状態に戻すことではない
原状回復は借りた当時の状態に戻すことではありません。入居者が修繕すべき範囲について知っておくと、余計な支払いをする心配はなくなります。
原状回復とは
賃借人の故意・過失等による劣化の回復を意味する。建物の自然損耗については直す義務はない。
建物の自然損耗は大家が負担する
建物の自然損耗は入居者が直す義務はありません。修繕費用は家賃に含まれているため、大家が負担するからです。自然損耗とは下記のような箇所です。
- 畳の日焼け
- 家具の設置による床のへこみ
- 画鋲による壁の小さい穴
- 冷蔵庫による壁の黒ずみ
- 経年によるクロスの汚れ
故意・過失による損耗は入居者が負担する
故意・過失による損耗は、入居者が負担しなければなりません。入居者が負担すべき損耗は下記のような箇所です。
- 子供の落書き
- タバコのヤニ汚れや焦げ跡
- 物をぶつけて破損した箇所
原状回復についての詳細は、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で確認できます。原状回復の定義を理解しておけば、不当請求を見抜けます。
故意・過失によってキズつけた箇所は新品価格を負担しなくて良い
故意や過失によってキズや汚れをつけてしまっても、新品価格で負担する必要はありません。入居者は残存価格で負担すれば良いからです。残存価格とは耐用年数が経過した後に残る価値のことを言います。
耐用年数とは新品で買ってから価値が残る年数
- クロス・畳床・カーペット・クッションフロア…6年
- 流し台…5年
- エアコン・クーラー・インターフォン…6年
例えば、クロスの耐用年数は6年です。6年間住んでいると、クロスの価値は0円(便宜上1円扱いになる)になるので、価値はありません。価値がないものをキズつけてしまっても、負担する必要がないということです。
3年間住んでいた場合は、クロスの価値は半分の5万円になります。このタイミングでキズつけてしまったら、5万円分を入居者が負担します。仮に新品にするのに10万円かかったとしても、全てを負担する必要はありません。
壁や床を直したときも、クロスと同じ考え方です。耐用年数を理解して、残存価格で負担をしましょう。
故意・過失によるものでも壊れた箇所だけを負担すれば良い
故意や過失で物を壊してしまっても、全てを直す必要はありません。入居者は壊してしまった箇所だけ直せば良いということです。直す範囲は下記の通りに決まっています。
- クロスは最大で1面まで
- フローリングは1枚単位で張り替えれるものなら1枚のみ
- クッションフロアは1面まで
残存価格が残っているクロスをキズつけてしまった場合、負担するのは最大で1面までです。新品価格ではなく残存価格で保証するので、壁一面張り替えるのに2万円かかったとしても、3年間住んでいたら1万円の負担をします。
残存価格が残っているフローリングにキズをつけてしまった場合は、キズをつけてしまった1枚分だけの張替えです。全面張替えの負担は不要で、新品価格ではなく残存価格で保証します。
自分の過失でつけたキズは火災保険で直せる
家を借りるときに必ず入るのが「火災保険」。火災保険に付いている「借家人賠償」を使えば、大家さんに被害を与えてしまったときに、直す費用を保険会社が負担してくれます。借家人賠償で直せるのは下記のようなケースです。
- 引越しのときに物を当ててクロスをキズつけてしまった
- 子供が壁に落書きを書いてしまった
- うっかり物を落として設備を壊してしまった
- 子供がおもちゃを投げてTVを壊してしまった
火災保険は何回使っても保険料は上がりません。ただし入居中でないと使えないので注意が必要です。退去時には使えないので、キズを付けてしまったら、その都度保険会社に連絡をして直しておきましょう。
保険会社に補償してもらう流れ
- キズをつけてしまった箇所の写真を必ず撮っておく
- 保険証券を準備(見つからない場合は保険会社に連絡して再発行してもらう)
- 保険会社に連絡(借家人賠償をお願いしたいという旨を伝える)
火災保険の正しい使い方については、下記の記事で解説しているので参考にしてください。
特約に記載されていても無効になるケースが多い
鍵の交換代やエアコン清掃代などは、次の入居者のための費用なので、大家が負担するのが基本です。しかし大家から「特約に記載されてますよね?」「入居時にサインをしましたよね?」などと言われ、諦めてしまう人が多くいます。
特約に記載されていてもまだ交渉の余地はあります。実は特約を満たすためには下記3つの条件が必要だからです。
- 具体的な金額が記載されていること
- 契約者がきちんと内容を認識していること
- 特約のページに記名押印があること
上記の条件を満たしていない特約は無効です。特に大事になるのが、特約のページに記名押印があることです。契約書の最初または最後に記名押印をしていても、特約のページ自体に記名押印がなければ、その特約は無効となります。
契約書をチェックして、特約の条件を満たしていない場合は指摘して交渉しましょう。
賃貸からの退去手続きの手順と注意点
ここでは退去完了までの手順と注意点について解説します。退去完了までの手順は下記の通りです。
- 火災保険を使って入居中にキズを直す
- 賃貸契約書を準備する
- 解約通知(退去届)を送る
- 退去日までに全ての家具を出しておく
- 退去の立会いはしない
- 解約日までに鍵を返す
- 請求が届いたら内容を確認
火災保険を使って入居中にキズを直す
火災保険で直せる箇所は、火災保険に付いている「借家人賠償」を使って直しておきましょう。
火災保険は何度使っても保険料が上がることはありません。キズを付けてしまったら、その都度保険会社に連絡をして直しておきましょう。修繕箇所がなくなれば、原状回復の負担も減るため、費用は安くなります。
賃貸契約書を準備する
賃貸契約書を準備して、特約や解約通知を何か月前に送るのか確認をしておきましょう。
解約通知を送るのは、退去の1か月前までが多いが、2か月前の場合もあるため注意が必要です。
解約通知書(退去届)を送る
解約通知書を送る際は自分に不利な点がないか注意しましょう。よくあるのが下記のような記載です。
- 原状回復費用は言われた通りの金額を認めて支払います
- 異議申し立ては一切いたしません
- 退去日までに鍵の交換代とクリーニング代を事前に支払います
上記のような自分に不利な内容は、全部斜線を引いてその上に印鑑を押しましょう。
解約通知書は相手の書式じゃなくても良い
解約通知書がない人は、自分の書式で送りましょう。記載内容は下記を参考にしてください。
○○マンション○○号室の○○(名前)です。
〇月〇日を持って、○〇マンション○○号室の契約を解除します。
鍵は〇日までに返却したします。
解約通知書に盛り込む内容は下記5つ。下記の内容を記載しておけば、相手は変な請求をしづらくなります。
- 今後のやり取りは全てメールで
- 入居時からあったキズについては指摘しておく
- 退去の立会いはしない
- 退去費用の請求はガイドラインにそってお願いします
- 金額は専門家に確認してから返事します
今後のやり取りは全てメールで
言った言わないの水掛け論を防止するために、自分のアドレスを記載して、今後のやりとりは全てメールでお願いしますと記載しましょう。業者は証拠を残さないように、電話でやりとりをしたがるからです。
入居時からあったキズについては指摘しておく
入居時からのキズを事前に指摘しておくと証拠になります。
退去の立会いはしない
退去の立会いはしませんと記載します。立会いをするとトラブルがより悪い方に行きやすいからです。とにかく業者は立会いをして、サインをさせようとしてきます。サインをしてしまうと、費用を認めたことになってしまうので、注意が必要です。
鍵は退去日までに返却しますと記載しておけばOKです。
退去費用の請求はガイドラインにそってお願いします
「原状回復費用を請求する場合は、最初から新品だったのか証明する写真や、領収書を貼付してください」とメールで書いておきましょう。中古のものを新品の価格で請求してくる悪徳業者が多いからです。
金額は専門家に確認してから返事します
無理やり金額を認めさせて、サインをさせようとする業者もいます。「専門家に確認する」という一文が、相手へのけん制の役割を持ちます。
退去日までに全ての家具を出しておく
家具を全て出す際に、室内の写真はたくさん撮っておきましょう。業者によっては、写真を加工して日焼けがあるように見せたり、自分でクロスにキズを付けて、費用を請求してきたりする業者がいるからです。
写真を撮るときは、全体だけではなく、各箇所のアップも撮っておきましょう。
退去の立会いはしない
退去の立会いは基本的にしないのがオススメです。よく分からないままサインをさせて、ぼったくろうとする業者が多いからです。
業者が立ち合いをしたがる理由は、お互いに原状回復の箇所を確認するためです。しかし実際は、その場ですぐにサインをさせたいため、立合いをしたがります。
サインをさせた後なら、入居者にとって不利益な内容でも回収がしやすくなるからです。
もし立合いをするなら次の3つを守りましょう。
- 女性の場合は男性同伴か複数人
- 必ず録画する
- 絶対にその場でサインをしない
女性1人で立合いを考えている人は注意が必要です。こわもての人が来て、サインするまで帰さないと脅されたりするケースもあるため、必ず男性同伴か複数人で立ち合いましょう。立ち合う際は録画しておくと証拠として残せます。
特に大事なのが絶対にその場でサインをしないことです。サインをしなくても退去は完了するので安心してください。業者には「帰って専門家に相談します」と言えば大丈夫です。
解約日までに鍵を返す
鍵の返却は郵送でOK。
請求が届いたら内容を確認
清算金がなければ解約は完了します。請求があった場合は下記のポイントをチェックしてください。
- 残存価値での請求になっているか
- 自然損耗の箇所を請求されていないか
- 入居時新品だった証明を相手は送ってきているか
- 入居者と貸主の負担割合をきちんと記載しているか
ガイドラインにそった請求内容になっているのか確認をしましょう。クロスの張替えの項目は水増し請求が多いため、要チェックです。クロスの単価は高くないか、張替えの範囲計算がおかしくないか、確認をしてください。
クロスの相場
クロスの相場は地域にもよるが1mで700円~800円程度。
クロスの張替え範囲
クロスの張替えは最大で1面までです。クロスの㎡計算は次の式で算出されます。
【高さ(2.5m)×幅=㎡】
アパートの幅は一般的に2.5m、ワンルームの幅が4mだとすると、2.5×4=10㎡です。100㎡とかで請求してくる業者は多いが、壁10面分替えた請求になるので注意しましょう。
退去の手続きでよくある業者とのトラブルと対処法
ここでは、退去の手続きでよくある業者とのトラブルを紹介します。下記のようなことを言ってくる業者には注意しましょう。
- 退去日までにハウスクリーニング代と鍵交換代を先に支払え
- 立ち合いをしないと退去できませんよ?家賃が来月もかかりますよ?
- なんで立ち合いができないの?何かやましいことがあるの?
- 原状回復はあくまでガイドラインでしょ?法的効力はないから!
- サインしないなら今後、家を借りれなくなるぞ!
退去日までにハウスクリーニング代と鍵交換代を先に支払え
実際に契約書に記載されているのであれば、消費者契約法10条違反です。契約書に記載がなければ、「退去日までに払わなければならない根拠を、メールで送ってください」または「専門家に相談します」と伝えれば引いてくれます。
立ち合いをしないと退去できませんよ?家賃が来月もかかりますよ?
これは業者の悪質な嘘です。退去は解約通知と鍵の返却をもって完了します。
なんで立ち合いができないの?何かやましいことがあるの?
とにかく立ち合いをしてサインをさせたいだけなので、放っておけば大丈夫です。
原状回復はあくまでガイドラインでしょ?法的効力はないから!
裁判をしたら基本的にガイドラインにそった判決になるので安心です。最高裁の判決にも尊重されるので、実質的に法的拘束力はあります。
サインしないなら今後、家を借りれなくなるぞ!
結論、借りれます。退去費用でぼったくる会社からは、今後借りないでおきましょう。
原状回復を正しく理解して退去費用を抑える
退去費用・原状回復費用を安くするポイントは下記5つです。全て理解しておけば退去費用をぐっと低く抑えられます。
- 原状回復は部屋を借りた当時の状態に戻すことではない
- 故意・過失によってキズつけた箇所は新品価格を負担しなくて良い
- 故意・過失によるものでも壊れた箇所だけを負担すれば良い
- 自分の過失でつけたキズは火災保険で直せる
- 特約に記載されていても無効になるケースが多い
不動産業界は悪徳業者が多く存在するため、退去費用についてのトラブルが多いのが現状です。
NPO法人「賃貸トラブルたすけ隊」では、賃貸トラブルの原因や解決のための対処法を紹介しているので参考にしてください。
退去費用のトラブルは消費者センターや県にいっても解決しません。不動産協会は身内になるので対応してくれないからです。
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賃貸トラブルの原因・対処法を紹介